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ワインとチーズは同じ産地でないと相性が良くないのか?



今年の夏(8月10から1週間ほど)にフランスのノルマンディー地方にいろいろなチーズの工場の取材に行ってきました。チーズの生産の様子はもちろん、複数の農家を訪ねて、そこで行なわれる搾乳や牛の出産にも立ち会うことが出来ました。そして、地元に住む人達と食事を共にして、チーズに関するお話を聞くことも出来ました。また、彼らフランス人がどのようにチーズを食べているのかについても見聞きしてきました。日本では曖昧な情報が氾濫していると常々感じていましたが、今回の旅を終えてそれらが確実に間違っていると実感しました。今回は、「ワインとチーズは同じ産地でないと相性が良くないのか?」についてです。

セラーで箱内熟成をしているカマンベールを食べさせていただきました。(Fromagerie REO AUG 2005)若いリヴァロAOC。この後ガマの草を巻いて完成です。(AUG 2005)

長いので、結論から言います。答えは、NOです。ワインとチーズが国境を越えても相性がいい場合もありますし、同じ産地同士でも、相性の悪いワインとチーズの組み合わせは多々あります。つまり、「ワインとチーズは同じ産地であろうとなかろうとそれは大した問題ではなく、産地を問わず個々のチーズとワインとの間に、美味しく楽しめるパターンは無数にある。」ということなのです。冷蔵庫のチーズに合うワインを探すには、ワインの生産地はさほど重要ではないのです。それよりもまずチーズの味を見て、その味に合うワインをどこかで試飲して一本のワインを選ぶ方が確実なのです。その逆にワインを持っていて、そのワインに合うチーズを探す時にも、ワインと同じ産地のチーズにこだわる必要はないと言うことです。こんな言葉に惑わされずに自由な発想で、自分だけの美味しいコンビを見つけましょう。もっとはっきりと言えば、「このチーズにはこのワイン一種類しか合わない。」なんて事は無くて、大抵のチーズとワインは、一緒に食べてどちらも美味しく頂けるものなのです。ことさら、同じ地域のチーズとワインにこだわる必要は全くないのです。

また、長年多くの方がチーズとワインを楽しんでこられた経験から、「この○○という名のチーズには、この△△という名前のワインがよく合うなぁ。」とかその逆に「この××ワインには、この◎◎チーズがよく合うことが多い。」といった経験則は確かにあります。しかし、今回の話しはこれとは別物です。何故なら今回の話しは、この経験則以上のもっと広い範囲のチーズやワインに当てはまるかのような大風呂敷だから良くないのです。もしも、そう言った人が、そこの地域で生産される全てのワインとチーズの全て組み合わせで試した結果からそう云うのなら私も認めます。しかし、現実にはそんな事は在り得ないのです。一例を挙げれば、世界的にも有名なカマンベールを作っているフランスのノルマンディー地方。ここではワインは一本も作られていません。つまり、同一地域にチーズとワインが必ず存在することは限らないからです。地域内でワインを生産しない彼らもカマンベールの熟成度合いを考えながら、それに合うワインをボルドーやロワールなどの別の地域のワインから選んで、自由に楽しんでいるのです。更に今回の話が間違っている理由はたくさんありますが、まず肝心な点は、チーズを作る人達が同じ地域で作られるワインの味を意識して作っている訳ではない事です。(逆にワインの作り手もチーズの味を意識して作っていません。)フランスでは、チーズ作りにだけ適している地域やワイン作りにだけ適している地域、またワイン作りにもチーズ作りにも適している地域やワインもチーズも出来ない地域などいろいろです。地形や気候などの各地域の諸条件を見ながらそれに適最もした農業が営まれているのです。つまり、今回の話は明らかに根拠のないアホラシイ話しなのです。このようにしてワインとチーズの相性を法則化しようとすること事態に無理があるのです。どうして、こんなつまらない事を日本人は言うのでしょうか?どうしてこんな浅はかなことを口にして、さも自分がチーズやワインのことを知ったか様な見栄を張りたがるのでしょうか?

今回訪問したノルマンディー地方はフランスでも特にチーズ作りが盛んな地域です。カマンベール・ド・ノルマンディーの他にもリヴァロ、ポンレヴェック、カルヴァドス、などAOCのチーズ。またカルバドスで洗ったチーズなどこの地域性がよく表れたチーズも作られています。しかし、ノルマンディーは寒くて、平坦なのでぶどう作りには適さないのです。だから、寒さに強くて平地を好む牛を中心とした機械化された大規模経営の酪農業が盛んになっているのです。

では、地元ノルマンディーの人達は、カマンベールを食べる時にワインを飲まないのか? はい、飲まない人も大勢います。子供はチーズを食べますが、アルコール類は飲みません。もちろん、大人では各地のワインを飲む人もいますし、地元でりんごから作った発泡酒のシードルを飲む人やブランデーを飲んでカマンベールを食べる人もいます。もう一歩踏み込んで言えば、チーズを食べるからといって、その時に必ずワインで無くてはならない訳でもないのです。「チーズと言えばワイン。」こんな事を言うのは日本人くらいかも知れません。ブリーというチーズには、香り高いコーヒーがとてもよく合います。これを知っていて日々楽しまれている日本人もたくさんいらっしゃいます。チーズと言ってもワインに囚われない自由な発想のそうした方は考える賢い消費者だと思います。このようにフランス人の多くは、日本人だけで通用するような話しで、チーズやワインを消費したりはしないのです。ミモレットには、甘いポート酒が良く合うこともこの旅でフランス人から教わりました。

では、では、一体だれがこんなことを日本中に言いふらしているのでしょうか? それはTV番組であったり、ある同じ本を読んだ飲食業に携わる者が、頭に入れただけで自らが考察や検証をせずにそれを接客時にまことしやかに口にした積み重ねが今日の広がりなのかも知れません。またTVというのは、狙った通りの消費を生み出すのが狙いなので、裏付けの無い事を公然と垂れ流します。TV番組は、スポンサーの大手企業あってのものなので、その利益に直結した内容に沿うのは仕方はありませんが、度が過ぎていると思います。こうした情報に流される消費者は、本当に何を買っても長続きしません。焼酎といえば、焼酎を買います。モッツァレラが流行れば、モッツァレラになるだけなのです。普段から自分で考える習慣がないので、外からの情報を簡単に全て受け入れてただ消費している日本人は相当多いと思います。でも悪いのは消費者ではなく、何も知らない消費者にこうした曖昧な事を流す側だと思います。

チーズを直輸入して毎日売っている私が言うから間違いないですが、チーズは特別な食品ではありません。貴重だとか、中には「幻のチーズ」なんて消費者をなめているとしか思えないようなチーズ業者も日本には多くいますが、チーズは、竹輪や納豆、豆腐と同じような食品の一つに過ぎません。値段が高いと高級だと誤解している日本人は多いですが、値段が高いのは航空運賃と高関税が主な理由です。フランスではとても安いです。それでも私は、チーズは素晴らしい食品だと思います。竹輪や納豆との大きな違いは、チーズには味の多様性があることです。チーズはその種類が多いですが、味が短時間に大きく変化するという特徴がある珍しい食品でもあります。いろいろな味があるからこそ、それを利用してソースを作ったり、その他の食品や肉や魚、野菜との組み合わせも実にたくさん出来ますし、それがおいしさや楽しさにつながるのです。チーズが持つこの多様性のある組み合わせが面白いのです。そうした意味からすると、「チーズには必ずワインを。」ということも特にありません。ワインが飲めなくてもチーズだけで十分楽しめます。チーズを食べるからといって、ワインとの組み合わせだけを特別視することもないのです。今回のような話の多くは、日本人の自由な消費行動を縛りつけます。そうした話しに惑わされること無く、一人一人が自分の頭で考え、もっともっと自由に、自分だけのチーズとその他の食品(ワインも)との組み合わせを見つけて、チーズやワインをより美味しく楽しんで頂きたいと思います。これを書いて胸のつかえが少し取れました。やっぱり、日本にずっと留まって同じものを見たり食べたりしていては、いかんなぁーと思いました。チーズやワインや食品の事は、フランス人の方が私達よりもより深く考えていると感じたノルマンディー訪問でした。(おしまい。)


ワインとチーズは同じ産地でないと相性が良くないのか?