チーズ名でモンドールAOCとヴァシュランモンドールは同じか |
左のチーズは、モンドール。フランスのAOCチーズです。では、右のチーズは?と見れば、ヴァシュラン・フェルミエと書いてあります。うーん、たしかヴァシュラン・モンドールという名のチーズは聞いたことがありましたが、これはそのチーズの事なんでしょうか? |
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ここまでの話を聞いてその違いを答えられる人はそんなにはいないと思います。事実、私達チーズマーケットのスタッフも知りませんでした。そこで頼りになるのはパリのランジス市場のチーズ担当者の方です。 |
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山本:「あのー、チーズでモンドールの事をヴァシュランとかモンドールとかヴァシュラン・モンドールと呼ばれるのを時々耳にしたのですが、それらは違う別のチーズの事なのですか?それとも地域や国で呼び方が違うだけで同じチーズなんでしょうか?」 |
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すると、その温和な方は、こうお答えになられました。 |
お師匠様:「フランスでは、AOCの指定を受けているモンドールをモンドールAOCと呼びます。このチーズは、ある決まった地域の中だけの生産に限られています。一方、ヴァシュラン・モンドールという名のチーズは、フランスには存在しません。これは、スイス国内で作られるチーズのことで、フランスのモンドールAOCと起源や製法がほとんど同じチーズのことを指しています。このチーズのことをスイスでは、ヴァシュラン・モンドールと呼んでいるのです。つまりスイスでは、このチーズをフランス風に”モンドール”と言わないですし、逆にフランスでは、フランスのモンドールAOCのことを”ヴァシュラン・モンドール”とは、呼ばないのです。」 |
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山本:「はい先生、よく分かりました。ありがとうございます。しかし、もう一つ疑問が残るのですが、・・・。上の写真のモンドール・フェルミエというチーズは、このどちらにも当てはまらない名前のチーズですが、一体これはどういうことなんでしょうか?」 |
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お師匠様:「うーん、いい所に気が付きましたね。実はこの右のチーズは、フランスのフランシュ・コンテ地方に住むプーレさんというエネルギッシュなおじさんが一人でミルクを絞るところから作っているチーズなのです。これは、先の説明のどちらにも当てはまらないチーズです。まず、フランスで作られているので、スイスで作られそう呼ばれる”ヴァシュラン・モンドール”とは呼べない。またこのチーズは、フランスで作られているけれど、モンドールAOCの指定する地域内で作られていないので、”モンドールAOC”とも云えないのです。」 |
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山本:「でも右のチーズを見ると、下の写真のような外観で、チーズ自体はモンドールのようですが、・・・」 |
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お師匠様:「その通りです。これは正にモンドールです。しかし、今のAOC制度上、モンドールとは云えない。ところがこのプーレさん、実はモンドールがAOCの指定を受けるずっと前からずっとこの地でこのモンドールを作っていた方なのです。つまりモンドールのAOCという制度よりも長い歴史を持ってこのチーズを作っておられたのです。しかし後から出来たAOC制度で、たまたま自分のチーズ工房がある地域が、モンドールAOCの指定から外れてしまった。そこでこれまでモンドールと名乗って製造・販売していた自分のチーズをモンドールと呼べなくなり、新しいというか別の名前を考えたのです。そこで、モンドールがAOCの認定を受けた後、フランス国とスイス国の両方で呼ばれていない別のチーズの名前として、「ヴァシュラン・フェルミエ」という独自のチーズの名前を付けたのです。」 |
このお話を伺ってから、プーレさんに早く会ってみたいと強く思いました。「AOCよりも昔からモンドールを作っていたなんて、・・・。」とても驚きました。またこの制度の為に、こんな素晴らしい人が作るチーズがモンドールAOCとして認められず、逆にあの超工業的で不潔な工場で作られたチーズがモンドールAOCの指定だなんて、・・・。AOCって一体何なの?という疑問を感じずにはいられませんでした。今回のフランシュ・コンテ地方の訪問記でもご紹介したプーレさんのバシュラン・フェルミエチーズを私達は食べました。この味こそ、本来のモンドールなんじゃないのかなぁーと想像しました。それはまさにその地域の気候や風土を感じさせる個性的な味わいで、スーパーマーケットに並んでいるような軟弱なチーズとは別物で、その味わい深さに惚れてしまいました。・・・・また一つ、輸入したくなるチーズに出会えて幸せです。 |
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チーズ名でモンドールAOCとヴァシュランモンドールは同じか |