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やぎのチーズほど熟成度合いで風味が大きく変わるチーズはない。(フィリプさんが作るやぎのチーズ)



今回は、やぎのチーズのいろいろな状態や熟成度合いの違うチーズを紹介したいと思います。こうした様々なチーズを見ることで、今自分が目の前にしているチーズがどれ位熟成されたものなのか、或いはいい熟成具合なのか、それともいい状態ではないのかを見分けるヒントにもなると思います。
 
4月(2007)にフランス・ロワール地方にあるやぎのチーズを作る農家、フィリップさんを訪ねました。その時に彼の直売店でいろいろな熟成度合いのやぎのチーズを見せて頂きました。

チーズ工房に隣接した店。床がタイル貼りで明るいお店でした。

ご覧のように小さな冷蔵ショーケースには形や大きさの違うやぎのチーズが並べられていました。フィリップさんは、クロタンシャビニョールAOCとサントモール・ド・トゥーレーヌに似た形をしたビュッシェ、ヴァランセに似たピラミッドなどを彼が飼育しているたった140頭のやぎのミルクから作っています。

ランジス市場に卸したり、こうして自分で売ったりといろいろな販売ルートを持っています。

まずは、クロタンシャビニョールの若いものを切って食べさせてくれました。下がその写真です。一般的にこの様に切り口が、スパッとして輪郭の線がしっかりとしているのは、とても良い状態のやぎのチーズだと言えます。この様にチーズからある程度の水分が出ているチーズは、蒸れて柔らかくなって悪臭が出ることもありません。こういうやぎのチーズを選んで少しずつ切って食べ、ゆっくり楽しむのが良いでしょう。

チーズマーケットでは、こうしたやや締まっやぎのチーズを良しとして売っています。

しかし、フィリップさんは、別の状態のクロタン・シャビニョールも見せてくれました。それが下の写真です。切り口を見ると表皮から内側に層が出来ているのが見えます。しかもそれは柔らかくなっています。また、表皮自体も小さな凹凸があり、触るとやはり柔らかいです。これは先ほどのやぎのチーズよりも水分がまだ抜け切れていない段階のより若いチーズです。油断をするとこういう状態のチーズは、やがて悪臭を放つようになります。(今は、いい状態で嫌な臭いはしませんが、・・・)
 
どうしてこんな危険な状態のものを作っているのかと聞いてみると、お客さんの中には、このように柔らかくて、臭いもするような状態のやぎのチーズが好きな人もいるそうで、その人達の為に作っているのです。この状態のやぎのチーズは、中性的な味や香りを好む日本人には受け入れられにくいものです。しかし、フランス人は、実にいろいろな嗜好を持つ人が居るという現実を改めて目にして、それはとても素晴らしいことだと思いました。また、それを支えるフィリップさんも素晴らしいと思いました。日本なら最大公約数的な消費者だけを対象にする製造や販売がほとんどですが、そうした極少数の消費者の嗜好にまで合わせて、熟成状態のチーズをいろいろと揃えようと準備をして働く姿が素晴らしいと思いました。これこそ正に「一人ひとりのお客さんの顔が頭に浮かぶ仕事」をされているのだと思いました。

この状態のチーズですと包装紙を外して、もう少し水分をチーズから抜いてあげないと蒸れてきます。

また、下のような特別のクロタン・シャビニョールも食べさせてくれました。3ヶ月は経っていそうな硬くて黒っぽいチーズです。表面はオールドミモレットのようにダニに食べられているような虫食いのような小さな穴が無数にありました。また、チーズの重さは、最初の半分以下になっています。とても小さいです。

オールドミモレットのようなクロタンシャビニョール。オブジェのようです。

早速切って中の様子を見せてくれました。輪郭がしっかりとしていて、柔らかくなっている層もありません。とっても良い状態のチーズだと言えます。でも、これぐらい熟成させたチーズが、全ての日本人の口に合うかといえば、必ずしもそうではないと思います。実際、私もこういう味の濃いやぎのチーズは苦手です。でも、この状態のチーズが食べたいと思うフランス人もいるのです。誤解して欲しくないのですが、こうしたチーズが好きなことが素晴らしいわけではありません。若いチーズが好きというのがいけない訳でもありません。要は、「嗜好は人それぞれに違っていて良い。」ということだけです。

この状態のやぎチーズですと安定しています。

店頭で実際のチーズを見ながらやぎのチーズを買うときには、こうした熟成度合いの違いも目で見て分かります。しかし、札幌のチーズマーケットに来られない多くの日本の消費者の人がやぎのチーズを買う場合には、いろいろな熟成段階のチーズを見分けることは困難です。そこで、チーズマーケットでは、美奈子店長がメールでお客さんとやり取りをして、お客さんの好みに合う状態のチーズを送っているのです。最後は、売り手がどこまでお客さんの好みを聞いてあげられるかだとフィリップさんに出会って思いました。人とのつながりは、やりがいがあります。


やぎのチーズほど熟成度合いで風味が大きく変わるチーズはない。(フィリプさんが作るやぎのチーズ)