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消費者の目を意識して作った低脂肪のチーズやマスカルポーネはおいしいか?



今回は、チーズに含まれる脂肪のお話です。チーズマーケットの人気商品、カデマルトリ社(Cademartori)のマスカルポーネ。これまでイタリアで何種類ものマスカルポーネを食べたり、輸入してきましたが、このマスカルポーネは断トツにおいしいチーズでした。数年前のある日、その美味しさをそのままにというふれこみで、通常のマスカルポーネを低脂肪にした「マスカルポーネ・ライト」という商品も輸入してしばらく販売しておりました。しかし、一年以上前ぐらいから、この低脂肪のマスカルポーネの輸入を止めました。理由は、やっぱり美味しくないからです。美味しくないと感じたのは私達だけではありません。お取引をしている多くの札幌の料理人さん達も同じ意見でした。メーカーが云う「おいしさそのままで、低脂肪になったマスカルポーネ」とは、うそだったのです。

チーズマーケットでお勧めのマスカルポーネと輸入を止めた低脂肪のマスカルポーネ。

上の写真で左が普通のマスカルポーネ、右が低脂肪のマスカルポーネです。右の写真をみると通常のものよりも、25%ほど乳脂肪分が低くなっていると表示されているのが見えます。(下に拡大した写真があります。)良質なクリームを主原料にしたマスカルポーネなのに、その主成分である乳脂肪分を低くしまって果たしておいしさそのままなんて、一時でも信じた自分を恥じました。それだけでも、おかしな話だと気が付けなかった自分が恥ずかしいです。これはもうおいしいものを作るメーカーの使命を逸脱して、明らかに消費者を意識して開発されたチーズです。

以前輸入していたマスカルポーネ・ライトのラベルです。

私が変だと思うのは、そうした低脂肪のマスカルポーネが生まれた背景です。それを作ったメーカーも低脂肪のチーズを求める消費者も変です。現代の消費者は、おいしいものや安全なものを選ぶことの他に、健康ブームのなのかコレステロールやカロリー、そして今回の脂肪分などについても目が向いています。それ自体は悪いとは思いません。しかし、その食品が高脂肪であっても、高コレステロールの食品であっても、それを避けていてはおいしくて豊かな食生活を営むことは出来ないと思います。”おいしいけれど高コレステロールや高脂肪の食品”とどう付き合っていくかが、現代人の知恵だと思います。そうした折り合いを自分でつけることなく、メーカー任せで、便利さだけで食べ物を選ぶ消費者がおかしいのです。病気を患っている人は別ですが健康な人ならば、「おいしいものを買って食べる。」というのが、食べ物選びの最大の動機です。「おいしいものが食べたい。でも肥らないほうがいい。」と欲張りな消費者が多くいれば、メーカーもそれをチャンスだと思い、そうした商品を開発してしまうのだと思います。そして、日本社会には得体の知れない、今までに無かった変な食べ物(健康補助食品?)が溢れていて、ややこしくなるのだと思います。

では、高脂肪のものを食べると本当にだれでも肥満になるのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。要はそれをどう食べるかとか、どれ位の量を食べるとか、一日に何回食べるとかといったことの方がより肥満に関係しています。私はチーズを毎日100gから200gは食べていますが、肥ることはありません。しかし、以前はこんなにチーズを食べていませんでしたが、64kgの体重が73kg位までに増えたこともありました。(仕事のペースがつかめずに忙しくて、不規則な食事をしていた頃です。)今私はチーズをたくさん食べますが、肉は週に2,3日しか食べません。無理をして肉を食べないのではなく、今の自分の体にあっていることが分かったのです。高脂肪のマスカルポーネが肥満になる原因ではなく、それを食べる各個人の食べ方や食べる量、つまり各個人の食生活の中身が鍵なのです。

いくらおいしいからといっても、うなぎの蒲焼をずっと食べ続けたら、健康診断でコレステロール値が高いと警告を受けることになるでしょう。要はバランスの取れた食事をすれば、たとえ高脂肪や高コレステロールや高カロリーの食品が食事のメニューにあっても問題ないということなのです。

私がチーズマーケットの仕事を通して感じた日本の消費者の大きな問題点は、白・黒のどちらかでしか判断しない姿勢です。「○○は、××にいい。」という情報が耳に入れば、あっという間に売り切れます。「○○は、××に良くない。」という情報なら、全く売れなくなります。これはとても危険なことです。つまり、こうした行動に出るのは、多くの日本人が自分だけの食生活のスタイルを確立できていないことを物語っています。マスコミなどの情報で、簡単に消費行動が左右されてしまうとは、大人の消費者として情けない気がします。「自分の体のことを自分でじっくりと考えて、その結果生まれた自分だけの食生活スタイル」を早急に確立すべきだと思います。そうしたスタイル、食に対する哲学が無いと、そうした情報でいとも簡単に行動が移ろい、食べる物も変わってしまうのだと思います。

脂ののったうなぎはおいしいですし、高脂肪のマスカルポーネも本当においしいです。私も大好きです。しかし、「何事も過ぎたる及ばざるが如し。」で、自分の体に合った量だけを食べるよう心掛けることを忘れてはいけません。肥るのが嫌だと思い、低脂肪に加工されたマスカルポーネを美味しくないなぁと思いながらたくさん食べるより、本来の味がするチーズマーケット^^)のおいしいマスカルポーネにして食べる量や回数を調節した方が、よっぽど中身のある食生活が出来ると思います。ちなみに私の場合は、マスカルポーネと苺を多く食べるようになった結果、市販のケーキは食べなくなりました。理由は一体どんな油脂で作られているケーキなのかが分からないこととが大きいからです。例えば、原価を安くしたいからとチーズマーケットのマスカルポーネとは違う美味しくないマスカルポーネを原料にして出来たティラミス。そうしたものを売るケーキ屋さんが多くある事も、この仕事を通して知ってしまいました。(食品業者は、お客には絶対に言わない店の裏事情を耳にするのです。)こんなケーキを買うぐらいなら、自分で輸入したマスカルポーネに蜂蜜やジャムをつけて普通のパンにぬって食べた方が、よっぽどおいしくて体にいいと自分の中で割り切れたのです。高脂肪の食品でもマスカルポーネやバターのように自然のミルク由来の油脂とはっきり分かるものは良いですが、市販のマヨネーズやマーガリンでは、一体どんな油脂を使用したものかが不明なので避けているのです。何でも口にするのが豊かな食生活なのではなく、考え・選び・食べるものを決めることが大切なのだと思います。

まとめますと、便利だから・栄養がプラスされているから・脂肪を除いているから、といった理由で食品を買うことは止めたほうがいいということです。そういう理由で食品を選べば、本当においしい味がするものを手に入れることは困難ですし、食べ物で一体何が大切なのかがボケてしまいます。何度もいいますが、食べ物で一番大切なことは、おいしさです。一挙両得(例;おいしくて・肥らない)なんて食品は不自然でおかしいのです。そうしたものを求める消費者が増えれば、本来の味を持った食品が隅に追いやられ、インスタント食品や成分量を人口的に操作した”まがい品”がはびこってしまうのです。

私は、やはりゆっくりと時間をかけて食事をする日本人が増えることが願いです。そうすれば、国民の食生活全体のレベルももっともっと上がると思います。日本人には、おいしいもの買うお金は持っていても十分に味わうための時間が余りにも少ないことが問題なのだと思います。義務教育の名の下に全国民が9年間ずっと、たった10分間で給食を食べさせられてきた習慣が、食を軽ろんじる国民性になってしまった一因でもあります。今からでも遅くないので、各人が自分の食生活を振り返り、時間がないからという理由で、コンビニなどの簡単・すぐ・便利だといった類の食品に手を出さないことです。そうした観点をもって食品を見れば、きっとおいしいものを手に入れられるような自分自身に変わっていけると思います。


消費者の目を意識して作った低脂肪のチーズやマスカルポーネはおいしいか?