とろとろの柔らかさじゃないとモンドールはダメなのか? |
今回は、どのタイミングモンドールを食べるとおいしいかについてのお話です。日本では、間違った情報が氾濫していますので、そうしたものをチーズマーケット社長がバッサリと斬って参ります。題して、「とろとろの柔らかさじゃないとモンドールは本当にダメなのか?」です。お笑いを見るような感じで、読んで頂ければ幸いです。 |
長いので、結論を先に述べます。「モンドールをおいしく頂くタイミングは、人それぞれに違っていて良いという事。つまり、おいしいと思うタイミングは人それぞれが決めることで、決してとろとろの柔らかいモンドールが最高だとは言えない。実際フランスで多くの人に愛される食べ頃とは、決してとろとろの末期状態のモンドールではない。」ということです。日本で出回る「モンドールは液体のように柔らかいチーズだ。」という情報は、間違いです。 |
|
ここ数年、日本でもネットや機内誌や雑誌のモンドールの記事が増えましたが、そのほとんどは、「流れるほどにとろとろの柔らかさのモンドール」といったコピーが多く、フランスでの消費実態を何も分かっていらっしゃらない方が書いているのでは?と呆れるとと共に怒りを感じます。これは売ろうとするためだけのセールスコピーに過ぎません。(日本では、柔らかいものが珍重されるようで、牛肉でもチーズでも柔らかいことに価値があり、それを魅力として言えば売り易いので、この様なことをどこでも言っているのだと思います。)実際、そんなとろとろのモンドールは、平均的な味覚を持つ日本人にとっては、おいしいと感じる域を超えた、「ただ臭くて味が濃くなり過ぎたモンドール」だと思います。つまりそれは、適度な熟成期間を超えてしまった、「過熟状態のモンドール」なのです。 |
|
では、これから今回の結論の理由を順を追って述べて参ります。まず上の写真ですが、この2月(2005)にフランシュ・コンテ地方にモンドールの生産者を訪問した時に、お昼に頂いたモンドールです。これを見てチーズの上から下までが全てとろとろの柔らかいように見えますでしょう か? 実際に食べた私の観察ですが、確かにチーズの中心の数センチはやや柔らかいです。しかし、「スプーンですくって食べる」とか、「流れ出すほどにとろとろで柔らかい」なんて日本で出回っているような表現は当たらないと思います。このように中心部分だけがお皿に少し流れる程度です。私達は、これまでに何度も何度もフランスへ行っておりますが、モンドールをわざわざスプーンで食べるフランス人を見たことはありませんし、スプーンを持ってきてモンドールを食べさせるレストランを見たことがありません。右の写真のようにチーズを食べる時は、食事中に使うフォークとナイフをそのまま使います。日本ではモンドールにわざわざスプーンまで付けてセット販売にして高くして売っている業者や店もあるようですが、これはフランス人から見れば、お笑いの世界だと思います。 |
また次の例をご覧下さい。上の左の写真は、フランスのディジョン市のとあるレストランで食べた時のチーズワゴンにのっていたモンドール(赤い枠の部分)です。右はそのモンドールを注文して、私のお皿に盛り付けてくれた時の様子です。如何ですか? 今にも流れ出すような柔らかさや流れるほどに柔らかいように見えますでしょうか? フォークでは刺せず、隙間から流れるほどの柔らかさ具合、つまり液体のようなモンドールに見えますでしょうか? 実際に食べた私の観察ですが、ご覧のように「ぼてっ」と盛り付けられていて、このまま食べずにしばらく放置しても、モンドールがお皿に広がっていくことはありません。つまり、わざわざスプーンですくうほどの液体のような柔らかさではないのです。この2つの例のモンドールの様な硬さ具合といいますか柔らさ加減が、フランスで広く食べられるモンドールの状態なのです。 |
|
3つ目の例として上の写真をご覧下さい。左は、ディジョン市にある別のレストランで食べた時、チーズワゴンから注文した柔らかいウォッシュタイプのチーズ(オレンジ色の三種)とヴァランセ(やぎのチーズ)です。名前は、手前からエポアス、ラミ・デュ・シャンベルタン、そしてリヴァロです。この3つの中で、特にエポアスはとろとろに柔らかいと言うフレコミ?が日本ではありますが、本当にそうでしょうか? 右がそのエポアスの拡大写真です。如何ですか? これが「流れるような柔らかいエポアス」に見えますでしょうか? 実際に食べた私の観察ですが、フォークでさして持ち上げられます。串刺し団子のような弾力のある硬さです。つまり、液体のような柔らかいチーズではありません。よく見るとチーズの中心は、すこし芯があるぐらい若めのエポアスをこのレストランでは提供しているようです。しかし、日本という島国の情報となるとフランスとは別のものに変わるのです。(日本では柔らかいことを珍重する食の嗜好性があるからだと思います。)日本では、モンドールと同様にエポアスのことを、「とても臭くて、スプーンですくう程に柔らかい、通?が食べるチーズ。」などというあきれた説明をしている店や記事が多いのです。一部には、「エポアスはこのように流れるほど、或いはスプーンですくうほどの柔らかさである。」と決めつけている店もあります。しかし、フランスでは、このようにいろいろな状態の、いろいろな柔らかさのエポアスが食べられているのです。流れるほどに柔らかいエポアスももちろんありますが、このようにカマンベールほどの柔らかさ具合のエポアスも、またその中間ぐらいのものも。つまりフランスの人たちは、それぞれの人がいろいろな状態のエポアスを楽しんでいらっしゃるのです。これが食の多様性というものではなかろうかと思います。ところが、日本では、モンドールもエポアスもスーマントランも、「とろとろに柔らかいチーズ」の一点張りなのが、変だと申しているのです。こんなことをフランス人に言ったら、「どの状態で食べようと大きなお世話だ。」と怒り出すのではと思います。 |
|
この多様性を尊重することが、チーズを楽しむ上で、いや全ての食物を楽しむ上でとても大切なことなのではと思います。日本ではとかく、「この柔らかさしかない。」とか、「この味だ。」とか、「きゅうりは、まっすぐでないといけない」なんていうきまり事が多すぎます。それ以外を認めず、それに外れると不良品であったり、規格外ということで、法外に安く買いたたかれたり廃棄する野菜など、おかしなことがたくさんあります。こうした価値観を一つに決めつけるような話に乗らないようにしないと、個々の価値観が失われてしまうと申し上げているのです。 |
|
上の写真にあるのは、チーズマーケットのモンドールです。私達はこれぐらいの状態(柔らかさ加減)がいいと推薦しています。しかし、もちろんこれよりも少し柔らかいモンドールでもいいとも思います。さらに別の人の好みから考えますと、もっともっと柔らかい、さらに熟成させたモンドールもいいでしょう。これが私達のモンドールというチーズに対するポリシーです。しかし、販売となると違ってきます。もし、最終段階の、とてもとても柔らくなってしまった時のモンドールをチーズマーケットで販売してしまうと、それよりも固めの上の写真のようなモンドールが食べたかったお客様の希望を叶えてあげらなくなります。こういうわけで、チーズマーケットでは、出来るだけ多くのお客様の味の嗜好にお応えできるように、中ぐらいの柔らかさ加減の、つまりそれはフランスで食べた標準的な柔らかさ加減を持った上の写真のようなモンドールをお届けしているのです。もっと柔らかいモンドールがお好きならば、さらに時間を置くことでそうなりますので、このようなモンドールの状態でお届けしているのです。 |
|
モンドールを前にして、それがおいしいかどうかは各人それぞれが決めることなんです。「モンドールは、液体のように流れ出すほどに柔らかい。」だの、「スプーンを使って食べます。」だの、一体どのフランス人が言っているのでしょうか? 我々日本の消費者も、フランス人のようにモンドール一つにしても、各人毎に好みの柔らかさがあっていいのだと認識すべきです。皆が同じ状態のチーズを食べることは無いのです。「流れるような熟成の進んだ状態モンドール」は、柔らかさを得られたとしても、それにより失う味のほうが大きすぎて総合的にはおいしくないので、広い支持は得られない状態だと思います。それ故、フランスでもそんなモンドールがあまり出されないのだと思います。一方、日本ではそうした間違えた・曖昧な情報を信じて購入してしまい、その余りの臭さと不味さに泣いた消費者を私達は多く知っています。「チーズマーケットさんのモンドールを食べて、本当のモンドールのおいしさを知りました。」とメールを頂くことがここ1年、急激に多くなってきています。フランス人が食べるモンドールの真実を知らない日本人が書き散らかした偽のモンドール情報に惑わされず、いろいろな熟成期間のモンドールを食べ比べる機会を設けて経験を積み、どれ位の状態のモンドールが好きなのかを自分自身で判断して、自分に合う味と柔らかさを備えたモンドールを見つけて欲しいと思います。チーズを食べるあなたが主役です。あなたがおいしいと感じるチーズが、あなたにとって一番のチーズなのですから。(おしまい。) |
とろとろの柔らかさじゃないとモンドールはダメなのか? |