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現地フランスのチーズ専門店では、流れるほど柔らかいモンドールばかりではありません。



10月20日、金曜日の朝にクーロミエの町から車でマルシェが開いている町にチーズや食料品を見に行きました。マルシェは市民の台所事情を反映しているので、普段からどういうものを買い、食べているのかが分かるのでとても参考になります。マルシェは近郊の町や村で代わる代わる開かれていることが多いので、車があればどこかの近郊の町のマルシェに行くことが出来ます。今回のお話は、今の季節に売られているモンドールの状態についてのお話です。

La Ferte-S/Jouarre という町のマルシェで売られていた3kgサイズのモンドール。

日本では、モンドールはまるでトルコアイスのようにびよーんと伸びたり、ソフトクリームのように流れるほど柔らかいチーズのように説明しているチーズ店が多かったり、機内誌や雑誌やTV番組なども一様にそのような内容ですが、決して現地フランスではそういうモンドールばかりでないことが、上の写真をみればすぐに分かって頂けると思います。3kgサイズの大きなモンドールですがどうですか? チーズの切り口からチーズがだらりとたれていませんね。また、別のチーズ専門店のモンドールはどうでしょうか? 下の写真のモンドールは、9月21日に行ったムランという町のマルシェにあったチーズ専門店のモンドールです。

ムランという町の屋根つきマルシェのチーズ専門店で売られていた3kgのモンドール。


やはり、さきほどのモンドールと同じように、流れ出すほど柔らかい訳ではないことが、一目瞭然です。またこれらのモンドールは、冷蔵庫に入れて販売しているわけではなくて、下の写真のように冷蔵庫の上に置かれています。つまり、売れ行きが良い店だと、モンドールを仕入れてからすぐに売れるので、熟成させる時間も無いので、このようにモンドールが固めのままで売られているのです。消費者は、こうしたモンドールを買ってからすぐに食べる人やもう少し家で時間を置いて柔らかくなった頃に食べる人など様々なのです。また、チーズ専門店では、こうした若めの硬いモンドールの他に、柔らかくなるまで熟成させたモンドールも揃えている店もあります。店員さんに話をすると奥から出して見せてくれる事が多いです。

この専門店では、モンドールは冷蔵庫に入れないで、常温に置いて売っていました。


まとめますと、チーズ専門店で売られている時のモンドールは一様に若いチーズであって、決して末期(賞味期限があと数日しかいないものや期限切れ)のように作ってからかなりの時間が経った、「流れるほどに柔らかい状態のモンドールばかりが売られてはいない。」ということです。柔らかいモンドールもあれば、このように若めのモンドールもあり、一口に「モンドールは柔らかい状態で売られている。」と決め付けることがおかしいと思います。フランスではモンドールに限らず、一つのチーズがいろいろな熟成状態で売られていることを認識してほしいのです。

翌日の朝食で食べた時のモンドール。写真のように少し柔らかくなっていました。

上の写真は、買ったモンドールを次の日の朝に食べた時の様子です。一日経ったのでやや切り口からチーズが出ています。それでも、とろとろに柔らかいモンドールではありません。こうしたモンドールをパンにのせて一緒に食べるとおいしいです。今年はこれで2回目のモンドールとなりました。(チーズマーケットのモンドールはお客さんに提供するばかりで、なかなか私の口に入りません。)

このようにして何度もフランスやイタリアに来ることが出来なかった時は、日本のTV番組や日本で売られている雑誌や本の内容が正しいと思っていました。しかし、今こうして何度も現地に来ていると、そうした情報は必ずしも正しいとは限らないことが分かります。例えば雑誌で1ページの記事を作る為に、わざわざフランスに来て調べて書いていない場合には、日本でチーズ扱っている相手に取材をするだけで、記事が出来上がるのです。当然、取材先の考えが反映された記事になることが予想されます。取材した内容が客観的に正しいかどうかを判断する術がない出版元にとって、取材した内容は点検をしないままにそのまま出版されるのです。ひとたび「モンドールが他のチーズと大きく違っているのは、流れるほどに柔らかいことです!」・・・なんて事が活字になると、それ以外のモンドールは、異常な・不良品のような・異質なチーズとして日本人の間では認識されてしまうのが、大変怖ろしいことなのです。モンドールは熟成が若いものも進んでとても柔らかくなったものもそれなりにおいしいのです。しかし、こうした多様性があることを語らずに、単に「とろとろに柔らかいのがモンドール。」と決め付ける事がおかしいと思うのです。

「マスコミの内容を鵜呑みにすること」、「多様性を認めない事」などという頭は、大いに日本人が反省しなければならない事の一つだと思います。売り手にとって都合がいいだけの情報が溢れている日本。海外に出かける時間が無くて、現地の様子を知らない者が記事を書き、それを同様に現地ヨーロッパの様子を知らない消費者が読み同じような考えに凝り固まってしまう。それはまるで、鎖国時代のとても偏った情報がただぐるぐると同じ国の中で回っているだけに過ぎません。真偽を判断しうる外からの新しい情報が入ってこない状態なのです。では、真実は一体どこにあるのか? それは、自らが絶えず疑問を持ち続ける姿勢から始まると思います。知りたいというエネルギーです。そして、チーズ業に携わるいろいろな人(酪農家、生産者、熟成士、チーズ卸、専門店、研究者、学者、ギャルソンなど)に同じ質問をして、そこから得られる答えの中でいつも出てくる共通した答えが、「真実」である可能性がより高いと思います。同様にこうして、フランス中のいろいろなマルシェやチーズ専門店に足を運び、そこで売られている様子を見ることで、ある一定の不変的なチーズの扱い方が見えてきます。フランスで作られてフランスで消費されているモンドールだからこそ、モンドールについての疑問に対する答えは、フランスの中にあると思います。こうした現地の様子をチーズマーケットでは、お客様にお礼の意味も込めて、HP上でこれからも公開して行きたいと思います。

チーズの仕事を創めて、9年が経とうとしています。これまでに行った数多くの現地取材を元にしたチーズの本を書きたいと思います。でも、本にするからには、もっともっといろいろな事を勉強した後にしたいとも思います。いつ出来るのか?・・・さらに長い年月が必要になると思います。

現地フランスのチーズ専門店では、流れるほど柔らかいモンドールばかりではありません。