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とても柔らかくなるエポアスやラミ・デュ・シャンベルタンを売るタイミング



フランスのチーズ専門店ではモンドールやエポアス、それにラミ・デュ・シャンベルタンなどといった”最後には切れないくらいとろとろに柔らかくなりやすいチーズ”をどのタイミングで販売しているのかが少し気になっていました。そこで今回は、ディジョンにあるチーズ専門店を7軒ほど訪問して、そうしたチーズの状態を比較して来ました。



ラミ・デュ・シャンベルタン エポアスが半分で売られています。

上の写真の左は、ラミ・デュ・シャンベルタンです。半分にカットして売られています。切り口を観察しますと平らになっていますね。つまりこれはまだとろとろに柔らかくなる前の比較的若い状態であることが分かります。一方右側は、エポアスですが、同様にハーフサイズで売られています。切り口がフラットなので、やはりエポアスの真ん中部分は、粉を吹いているくらい芯が残っていました。


ラミ・デュ・シャンベルタンの拡大図。 スーマントランの拡大図

上の写真の左は、ラミ・デュ・シャンベルタンの断面です。右側は、同じくウォッシュチーズで比較的柔らかくなるスーマントランです。やはり中心部分は、粉が吹いているような芯がありました。



また、あるチーズ専門店では、エポアスの1キロ盤が売られていました。こちらは、とろとろで切り口からチーズが流れ出していました。(ここでは、チーズを買わなかったので写真は撮れませんでした。)柔らかいエポアスを売る店が2軒。一方固めの若いエポアスを売っていた店が5軒でした。


では、どちらのチーズ専門店が正しいのか?と疑問を抱かれる方がいらっしゃるかも知れませんが、どちらの店も良いと思います。つまりチーズは、いつ売るかで柔らかさや風味がまったく違います。そのどちらを好むかは食べる人それぞれの嗜好ですから正解が一つということは無いのです。買う人はその切り口を見れば、目の前にあるエポアスがどういう状態でどんな味なのかが、凡そ分かります。そして自分の好みにあう状態のチーズを各専門店で買うことができるのです。チーズマーケットのようにハーフで売らない店では、担当者に今どういう状態なのかを聞いて情報を得ることが大切です。また、店舗でしたら、色や香りを嗅いで見ることも状態を知る上で大切です。


なぜ今回、このような話題を取り上げたかと申しますと、日本の中で出回っている情報が余りにも偏っていて、正解がまるで一つしかないようなことを書いている本やネットの情報がとても多いと日頃から感じていたからです。「エポアスは臭くて流れ出すチーズである。」とか「モンドールはとろとろになっていないといけない。」とか、わざわざモンドールにスプーンまで付けてセットで売っている店があったり、「ラミ・デュ・シャンベルタンは、雑巾のような臭さがたまらない」などと吹聴する方までおられます。雑巾のような香りのするチーズは、もうチーズではありません。腐っています。フランスでもそんなものは売っていません。これを美味しいと感じる方は、今すぐ医者に診てもらうことをお勧めします。(残念ながら、日本のある飲食店やあるチーズ売り場では、それが腐敗したものと知らずに、皿に出して提供したり、販売してしまい、それを食べたのだと思います。)また、こうした発言はまるで、「自分はこんな臭いものを食べられるツウなんだぞ。」と自慢しているかのようですが、大きな勘違いです。フランス人でも、先の専門店のように若めのウォッシュチーズを食べる方の方が多いですし、レストランでも、雑巾のにおいのするチーズが出ることは絶対にありません。つまり、エポアスを楽しむタイミングは、人それぞれで違っていて構わないということなのです。確かにエポアスもスーマントランもリヴァロもある時期を過ぎると、香りは強烈になりますが、あくまでそれは食べ物の匂いの範囲内です。エポアスも日本のくさやと同じで、口に入れると匂っていた程にその味が強烈ではないものなのです。私もエポアスなど今回のディジョン市のチーズ専門店で売られていたような若めのものが好きです。強く云いますが、芯があったり、硬いラミ・デュ・シャンベルタンを売ったり、それを皿に盛って提供することはごく普通であり、それが不良品ではないのです。れっきとした売り頃・食べ頃のチーズなのです。フランス人は、エポアスというチーズを例にしてもこのように、どのタイミングで食べるのかが人それぞれ皆違うなど、まさにそこには「食の多様性」があるのです。ですから、「このチーズはこのタイミングで食べるべし。」なんてことをいう先の例のような日本人が、余りにも愚かな発言をしているとお分かり頂けると思います。最後に付け足しで、モンドール(500gの大きさ)の話題です。「当店では熟成させて、とろとろになったものをお売りします。」という店があれば、そんなモンドールは、もうとっくに賞味期限が過ぎているか、あってもあと2,3日しかないようなタイミングだと思います。そんなギリギリのチーズを500gも買って食べ切れるのでしょうか? 先の例のように価値観が一つしかないようなチーズの情報には十分に気をつけないといけません。日本で売られているチーズだけを見たり・食べたりしている者同士の感想を見聞きしても、それはグローバルスタンダードな話には成りなり得ません。私達チーズマーケットでは、経費節減の為にフランスに出掛けずにただ売るのではなく、自分達のチーズの取り組み方が、果たしてこのままでいいのかを常に自問自答してその答えを探しています。その為に生産国であるフランスやイタリアの生産者やチーズ専門店や現地の消費者のお話に耳を傾け、またランジス市場の担当者などを訪ねる機会を増やすことで、いつも客観的に判断していく姿勢を持ち続けたいと思っています。


チーズを食べるあなたが、いつも主役です。チーズを食べるのに有段者も初心者もありません。(そんなことをいう人の話にはご注意を。)チーズを前にしては、皆平等です。あなたがおいしいと感じたチーズが良いチーズなのです。どうか先のようなくだらない話には耳を貸さず、また無理をして食べたりせずに、目の前にあるチーズを心いくまで楽しんで頂ければと思います。そして、信頼できる店を持ち、たくさんの試食を通して自分の好きなチーズをどんどん探していただければと思います。あなたには、自分の嗜好を知っていてくれる人がいるチーズ専門店がありますか? チーズに限らず、パンや食料などの店でそうした行きつけの店があるというのは、本当に幸せな町にお住まいだと思います。近代の日本の消費者の多くは、便利さを求めすぎて量販店での買い物に終始し、生産者や食料品店との顔の見える取引きをしてこなかった事が、先のような全くあてにならない噂話を信じてしまうような消費者の間に専門知識が育まれない土壌を作ってしまったのでは?とも感じています。


とても柔らかくなるエポアスやラミ・デュ・シャンベルタンを売るタイミング