| TOP |  お買い物方法 |  イタリア・サルディーニャ島のオリーブオイルと羊のチーズの旅日記 |

ピアランナさんと夫のアッツァ・ヨゼさんの牛は放し飼いです。(ORISTANO,Bauladu,Sardegna)



2月16日(土)(2008)の朝10時半過ぎにピアランナさんと夫のヨゼさんに、車で彼らの牧場を案内してもらいました。現在、乳牛を50頭ほど飼育しているそうです。ここで搾ったミルクを使ってチーズを作っています。ひょうたん型の「カジゾール」という名前のチーズです。大きさは、2キロほどあります。
 
お二人には、3人のお嬢さんがいます。上から高校生のエリーザさん、フランチェスカさん、そして末っ子で小学校5、6年生のジュリアさんです。アグリツーリズモは、エリーザさんが生まれた頃に始めたそうなので、もう15、6年ほどになるといいます。

ピアランナさんと夫のアッツァ・ヨゼさん。

車で5分ほどに牧場がありました。辺り一面は広大な平地が広がっています。またなだらかな丘には羊の群れが見えます。ここらあたりは、住宅地の郊外でどこも放牧場や自家用の果物や野菜を作る畑として利用されいるようです。

これが牧場の入り口です。膝の高さほどの鉄条網の囲いがあるだけです。2月というのに緑いっぱいの大地でした。

中に入るとさっそく牛達が近づいてきました。牛の世話は、夫のヨゼさんが担当しているそうです。先月に生まれた双子の子牛などもいると聞いたので、是非見たいと思っていました。どの牛も可愛がられているのか、大きな体をしているくせに、ヨゼさんに甘えにくるようなしぐさをしています。

私達が中に入ると、どの牛も逃げるどころか近寄ってきます。奥に見えるのが、牛舎です。

2月と言うのに、大地は緑で覆われています。今年は雨が降らなくて草が余り育たないので、これでも少ないといいます。でも、50頭の牛が食べて行けるほどの広い土地があります。札幌では考えられないほど温暖な島なんだと驚きました。

ちょうどお母さんからお乳を飲んでいた子牛。こんな光景は一般的な牧場では、在り得ません。

私達が最も驚いたのは、親子が一緒に暮らしているということです。商売としての牧畜では、牛乳をなるべく多く生産する事が目標です。乳を飲みたがる子牛がいれば、お母さんからミルクを飲んでしまうので、搾れるミルクがとても少なくなります。一般的には、生後一週間以内に親子を分離して、お母さん牛の産後の回復を待ってから通常の搾乳が始まるのですが、ヨゼさん達はそれをしません。何と半年間は子牛にミルクを与え続けるそうです。そして、出来るだけ自然に近い状態で牛を飼いたいと思っているのです。

「いろいろな種類の牛が放牧されています。」と思ったらみな同じ品種だそうです。

北海道の牧場にもありますが、狭い畜舎で牛を一日中生活させているような場合には、不自然というか歪が起こっています。例えば、牛が立つか座るしか出来ないほどの空間しかなかったり、角を切り落としたり、しっぽに輪ゴムをきつく結んでしっぽを腐らせて切っているのです。また、磁石を飲みこませて、牛が飲み込んだ釘などを胃の中で集めるなど、一般消費者には見えてこない可哀相な実態がある様です。
 
でも、ここでは、えさは自然に生えた草があるので、輸入したとうもろこしをあげる必要も無く、また夜も月明かりの中を広々した牧草地で眠ることも出来ます。排泄物が牧草地に落ち、それが栄養となってまた草が元気に育つ。有機物が自然循環しています。畜舎が排泄物で溢れて汚れている一般的な畜産業の姿とは無縁なのです。広々とした環境の中では、人間も牛もストレスが無くて生活できるようです。
 
これほど広さ的にも時間的にも余裕を持った牧場は、今まで見たことがありません。こういうことが出来るのは、ヨゼさん達が裕福だからという様な単純な理由ではなくて、やっぱり常に理想を持っていて、その為に今まで努力をしてきた結果だと思います。つまり、人間が何処にどう進んで行くかは、それぞれの哲学だと思います。最初は出来なかった事でも、理想を追い求めるという強い意志があれば、やがてはその思いが叶い、可能になっていくのだと思います。「金持ちに成る」とか「生産性が高い」とか「能率を重視」といった価値観が蔓延る国の人間には思いも付かない暮らしの中にこそ、豊かな時間がゆっくりと流れているのでした。


ピアランナさんと夫のアッツァ・ヨゼさんの牛は放し飼いです。(ORISTANO,Bauladu,Sardegna)