アントワーヌさんは、まず第一に自分自身が納得するチーズを作りたいのだと思います。AOCのチーズだと認められることやお客さんからの評価よりも・・・。そして、いろいろとやってみてようやく納得するチーズが出来つつあるんだと思います。そのチーズを買いたいと思うお客さんがいて、彼らに直接販売しているのです。だからAOC認証などの評価は不要だし、むしろ先の様な誤解を招くことになるんだと思います。アントワーヌさんとお客さんの間にある信頼関係の根幹は、AOC認証などの他人の評価ではなく、人と人とがお互いを認め合っている心のつながりです。 |
つまり、アントワーヌさんのチーズを買う人は、AOCだからという様な第三者というか自分以外の他人や団体が認めたという評価で "買う・買わない"の判断をしているのではなく、アントワーヌさんという人間やアントワーヌさんのチーズを自分の目で見て感じて、「これは素晴らしい。」と自分の頭で判断して買っているのです。「TVや雑誌に出ていたから、いいチーズらしい。」という安易な動機で買ってしまう多くの消費者とは全然違うのです。フランスを旅して思う事は、フランスには自分の判断の基礎となるものをAOC認証などの他人の評価・評判に委ねることなく、自分の五感で感じた事を大事にしている消費者と生産者が多いことです。 |
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これまでに私はフランス各地でいろいろなチーズの工場を見てきました。しかし、大きなチーズ工場ほど、「我々のチーズは、AOCの認証を受けた特別なチーズです。」と自慢げにアピールする度合いが強いなぁと感じていました(他にアピールしたいことはないの?)。でも、そのチーズはとても広い範囲のたくさんの農家の牛乳をごちゃまぜにしたもので、もうミルクの個性が消えていたり、ミルクを高温で殺菌しいていたり、チーズ工場に漂う空気がとても臭かったり、そして何といっても実際に食べるそのチーズ自体が美味しくないものであることが時々ありました。こういう経験からもAOCのチーズだから特別に良いとか美味しいとか限らないことを知りました。だから、アントワーヌさんの様に、自分で牛を育てて、美味しいミルクを作ることからやっている農家が、如何に素晴らしいか、そしてまた、能率や効率ばかりを優先する現代社会において、彼の存在がとても貴重でもあるとも思います。 |
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自分自身や自分の作ったチーズに、どれだけ自信があるかどうかを推し量る言葉が、今回の一言だったのだと思います。既存の認証制度や世間的に知られたブランド名などに頼らなくでも、ましてTVや雑誌の宣伝をする訳でもなく、たった一人の人間の存在意義をもってして、言い換えれば自分自身というブランドだけで、自分の作ったチーズを自分で直接販売していることが、アントワーヌさんの素晴らしさの一つだと私は思います。 |
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素晴らしい個性を持った魅力的な人は、日本でも私の周りでもとても多くいると思います。でも、その自分の素晴らしさに気が付いていない人もまたとても多いと思います。そうなってしまうのは、自分を殺してでも他に合わせようとする日本社会の風潮に押し流されているという理由もあると思います。でも、周りや他人の事を一度頭から外して、自分の良い点をじっと見つめれば、きっと自分にしかない良さが見えてきて自分自身にもっともっと自信が持てると思います。そしてそう思えた時、きっとアントワーヌさんの様に自分とは関係のない他人が作ったブランドが欲しいなんて思わなくなるし、そんなブランドに頼らない生き方が出来ると思います。
多くの人は、自分だけのブランドに気付いていないだけで、人は皆それぞれに独自の素晴らしいブランドを持っていると私は思います。それに気付かずに、他人の敷いた価値観に乗ってしまえば、永遠に自分らしい生き方はできないと思います。逆に自分の持つブランドに気付くことが出来れば、次からは自分のブランドが、人から求められる様に流れを180度変えることもできます。つまり、自分だけが持つ「良さ」に気付けられるかどうかで、その人の進む未来は大きく変わると思います。私も自分の良い面を有効に活かして、自分独自の生き方を続けていこうと思います。こういう考え方が出来る人が「自分を持っている。」人なんだと思います。そして、こういう人が日本でも増えていけば、もっともっと多様性がある面白い社会になると思います。 |