| TOP |  お買い物方法 |  07シチリアのオリーブオイル旅日記 |

こんな小さな生産者のチーズを探していたのです!(ペコリノチーズ)(Sicilia,Castronovo di Sicilia)



2月22日の朝、カストロノーヴォ村の外れの小高い丘の上にあるペコリノチーズを作る小さな生産者を訪ねました。ここでは、羊を500頭ほど飼育しているそうです。チーズ工場のまわりはぐるっと全てが牧草地になっています。リーダーの羊には、”ころん・ころん”という低い音のする鐘が首についていて、その他の羊は下を向きながら一所懸命に草を食みながら前に進んでいました。他には風の音しか聞こえないのどかに風景でした。

建物が2棟ありますが、手前は羊の畜舎で奥がチーズ工房になっています。見晴らし抜群で360度空が見えます。

さっそくチーズ工場の中に入ってみると、アルフォンソさんの姪っ子が一人でペコリノ(羊乳)のリコッタを作っていました。広さは12畳ほどの本当に小さな工房でした。大人2人で作業するのが最大のような広さです。でも、床も壁も窓も清掃が行き届いていて、奥さんのエプロンも綺麗で、これはきっとおいしいチーズに違いないと思いました。それに何と言いましても、工房に入った瞬間の匂いが良かったです。ミルクの甘い香りがしました。かつて大規模なモンドールのチーズ工場で嗅いだような消毒薬と腐乱したミルクのようなあの臭いとは比べようがないほどいい香りがしました。

着いたのが朝10時半頃。ハードチーズ作りを終えて、リコッタを作っている最中でした。


大きな鍋でホエーがぐつぐつ煮えてています。立ち上る蒸気の中でお玉を使ってざるに移しています。羊乳のリコッタはこの地方ではよく食べられています。シチリア島の代表的なお菓子のカンノーリにも使われています。「食べるかい?」といって4人分のお皿を用意してくれました。

これがペコリノのリコッタ。化学肥料や農薬のない牧草を食べた羊のミルクのリコッタは格別な味でした。

これには感動しました。さすが、あのアントニーノさんが事前に私達の訪問の連絡をしていてくれたようで、行く先々で良くしてくれます。リコッタがまだ温かいので余計に味が良く分かります。食べる前からいい香りがしてお腹がぎゅーと音を立てました。スプーンですくって食べるとまろやかで絹こし豆腐のような食感です。このままはちみつをかければ、立派なデザートになるような完成された味わいでした。あっという間に平らげてしまいました。

愛され続けて44年。美奈子店長は愛に溢れています。

このリコッタは残念ながら輸入して食べてもこの感動の味にはならないと思いますので、現地に行かれて食べることをお勧めします。今回私達が探していたのは、ペコリノのハードチーズです。下の写真がそのペコリノチーズです。ぶどうか何かの弦で作られたようなかごを型枠に使っていました。これは私も初めて見ました。この工房では、この大きさのペコリノチーズが一日でたった2個しか出来ないそうです。1頭のお母さん羊が出すミルクは一日でわずか1リットル。合計でも500リットルにしかならないために、できるチーズはその1/10の50kg程度なのです。

かごをチーズの型枠に使っていました。昔ながらの作り方のようで、こういう作り手が今もいるなんて何だかうれしくなってきました。

熟成庫に案内してもらいましたが、ここも4畳半ほどの広さでこれまでに見てきた中でも最も小さな規模だと思います。すでに地元のレストランや小売店などの売り先があるようで、順調に生産が出来ているそうで私も何だかとてもうれしくなりました。この地方の人たちが食べる分が無くならない程度に少量ずつ輸入して行ければ良いなぁと思いました。

5,6ヶ月ほど経つとますますいい味になるハードチーズ。10月頃に輸入できたらいいなぁと思います。

おいしいチーズを作るには、チーズを作る前の段階で大きな努力が必要です。チーズの原料となるミルクの質を高めることが大切です。そのためには、動物の健康状態を管理して、良質なえさを与えなくてはなりません。広々とした牧草地で飼い、清掃が行き届いた清潔な畜舎で休んでもらうなど、いろいろなストレスを無くすことも大事です。南フランスでおいしいやぎのチーズを作っているブーゴーさんもミルクを他から買ってチーズを作るのではなくて、やはりここのアルフォンソさんと同じく自分でやぎを飼い、大事に育てながらそのミルクを使っているからおいしいチーズが出来るのだと思います。

昨年辺りから北海道では牛乳の消費が減り、大量の牛乳を廃棄しているというニュースを耳にしました。とっても勿体無い気がします。でも、そうした牛乳を集めてチーズに加工して、「北海道乳100%のチーズですよ。」とセールスしても、アルフォンソさん達が作るチーズの足元にも及ばないことが容易に想像できます。北海道にもブーゴーさんのように自分で安心できるように牛を育ててそのミルクでチーズを作る賢い生産者がいます。こうした日々真剣においしいチーズを作ろうとしている人たちを前にして、このようなチーズを作り売り出すこと自体、失礼な話だと思います。また、「チーズは余ったミルクで作られるもの程度の食品」でしかないような認識をお持ちの人たちが日本にいるから、こうしたチーズを作ることになるのです。こんな低レベルのチーズが大量に出回っては、ますますチーズはこの程度の味なのかという誤解が日本中に広がってしまいます。こうした商品が生まれること自体、日本の消費者を馬鹿にしていますし、さらに言えばチーズ業に携わる全ての人たちにも失礼なことだと思います。いろいろなことを考えさせられた訪問となりました。


こんな小さな生産者のチーズを探していたのです!(ペコリノチーズ)(Sicilia,Castronovo di Sicilia)