日本の宿泊施設のレストランでは、「食材がたくさんあることが良いお料理」だと考えているのか、また日本の消費者も何でも食べられる事が豪華だと考えている人が多いのも事実です。でも、フランスでは決してそういうお客ばかりではありません。この様なレストランがあること自体がそれを証明しています。日本ならこの町の様に山沿いのホテルでも、カニが出たり海の魚の刺身や焼き魚が並びます。さらにステーキや鍋料理も出るかも知れません。また、都会にあるホテルのランチバイキングなら、「洋食・和食・中華の全てが食べられます!」と謳ったり、寿司・てんぷら・そば・ケーキ・・・と何でも揃っていることでしょう。日本では料理の数が多いほど、豊かな素晴らしい食事だと考えているのでしょう。でも、それは本当に豊かな食事なんでしょうか? 料理に使う多くの食材は、別の遠く離れた所から運ばれて来ています。その為に冷凍されていたり、予め別の場所にある工場で調理されたお料理かもしれません。今回のようにフランス各地を旅して回っていますと、そうした似たり寄ったりのメニュばかりのホテルは見かることはありません。だからフランスを車で回るのは楽しいのです。せっかく時間をかけて行った地方でもパリと同じような食べ物ばかりだったら、がっかりすると思います。つまり、どこでも手に入る食材で作られた料理なら、自ずとその味は知れているのです。そうした料理を前にしても感動がないですし、それを食べる事自体がつまらないと思います。「生ハムもフォアグラも神戸牛もないですが、とてもおいしい鱒が今日釣れたんです。」と胸をはるこのレストランの人達の心意気を感じました。何でもあるというのは、実はそれなりの品質のものが集まっただけのことで、本当に良い状態の食材ばかりが揃っているわけではないのですから。地元でとれた材料で作られたお料理には、人を喜ばせる力があります。そうしたお料理ならじっくりと時間をかけて食べてみたくなります。「本当においしいものが少しあれば、それだけで豊かな食事。」と私は思うようになりました。私にとってフランスは、真剣に食べることを教えてくれた国なのです。 |