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手紙を書ける相手が200人いれば、独立して飲食店はやれる。(一月三舟・札幌;松野 俊一)

「手紙を書ける相手が200人いれば、独立して飲食店はやれる。」


今から8年前、私がチーズマーケットを創めて間もない頃に、ワインや日本酒とおいしい料理を提供する飲食店の一月三舟(いちげつさんそう)という店に行きました。いいチーズを輸入しているんだって? それが私と松野さんと出会いでした。この出会いも私のお客さんからの紹介だったので、まさに今回の言葉のように「人のつながり」からの始りでした。
 
松野さんとの出会いから、私は多くの事を学ぶ事が出来ました。その中で一番印象に残っているのがこの言葉でした。一体どういうことかと申しますと、独立して飲食店をやっていこうと思うのなら、いろいろな人とのつながりが自分にあるかどうかが一番大切なことだというのです。初めて店を出す為には、いろいろなハードルを乗り越えなければなりません。でも、資金繰りや人材の確保、店舗立地などはそう大した問題ではないというのです。むしろ成功の鍵は、「自分の店に来てくれる人がどれ位いるのだろうか?」という事を冷静に考えるべきだと仰います。それは同時にこれまでの自分の生き方を振り返る事を意味します。それにしても人の顔と名前が一致する人が200人もいるとは、すごい事だと思います。
 
おいしいお料理を出す飲食店はどの町や都市にもたくさんあります。いや、ほとんどの店がおいしいものを提供していると思います。しかし、支持される店と廃業する店があるのは、味だけではないことを物語っています。突き詰める言えば、「その店の人間とお客との心が、つながり合えているかどうかが重要。」と松野さんは語っているのです。お客さんとの心のつながりを大事にしない店では、たとえ開店出来たとしても、そう長くは続かなくなるというのです。
 
松野さんは、一月三舟をもう10年近く営業されています。しかし、何と一度も宣伝にお金を使ったことがないのです。また、札幌には無料で掲載可能なタウン誌がありますが、そうした雑誌にすら掲載を断ってきたのです。営業的に苦しい時期もあったと思いますが、開店時に出したダイレクトメールの知人だけでやって来れたのです。そして、松野さんのもてなしを気に入りお得意さんに成ってくれる人が増えていき、その人が奥さんや家族と来たり、別の新しいお客さんを連れて来たり・・・、そういう人たちに支えられて店が成り立つようになったのです。松野さんのように人とのつながりを大事にする姿勢の店ならば、特に宣伝などをする必要がないということなのです。私はこういう店が札幌にあることをとても誇りに思います。札幌に住む人が、市内で新聞やTV、雑誌に載らない飲食店をいくつ思い出せるでしょうか? マスコミによく出る店が良い店だと錯覚していませんか?
 
何故宣伝をしないのかと聞いた事がありました。松野さん曰く、「TVや雑誌を見て来る初めてのお客さんが増え過ぎると、2人で営業している店なのでその全ては対応しきれなくなってしまうから。そしてそれは今来ているお客さんの居心地の悪さにつながるから・・・。」と。なるほど、松野さんにとって売り上げがどんどん増えていく事よりも、暮らしていけるちょうど良い売り上げがある現状で、店主も心からお客さんをもてなして、それを受けるお客さんも気持ち良くなって帰って頂ける。これが、松野さんの目指しているもてなし方なのです。
 
もしも、雑誌やTVなどを見て来店すると、その初対面の人にどうもてなしをすれば喜んでもらえるかが分かりません。そこで、松野さんは席に着かれるとそのお客さんに話しかけて、どういう方なのかを理解しようとします。もしもそこで、「○○さんの紹介で来ました。」となれば、初対面でも共通の話題が出来ます。そして自然に打ち解けて、紹介してくれた人にも恥をかかせない最大限のおもてなしをしているのです。
 
私も松野さんの考え方に大賛成です。飲食店にはいろいろな形態がありますが、例えばファミリーレストランやファストフード店のように、一時的に空腹を満たす為の店もあれば、松野さんのお店のように、ゆっくりとした時間とくつろげる空間の中で、おいしい食事をする為の店もあるのだと思います。でも、そのひと時が楽しくなるかどうかは、全て店の人の努力にかかっているわけでもないと付け加えました。先の話のように松野さんような飲食店では、食べに来るお客側にもお店の人との最低限のコミュニケーションがないと、店の人はその人を理解することが出来ないので、通りいっぺんのおもてなしで終わってしまうというのです。
 
つまり、ちょっとした会話があれば、初めてのお客さんでもどういう人なのかが分かります。するとよりよいおもてなしが出来ると松野さんは言います。こうして松野さんのもてなしに満足した多くの常連さんが集まるのが、この一月三舟という店なのです。チーズマーケットも徐々に松野さんの店に成りつつあります。宣伝をしない、TVや雑誌に載せない。なのに多くの常連さんのお陰で安定した営業が出来るようになって来ました。これからも頑張ろうと思います。
 
今こうして私は、店側の立場と一般のお客の立場の両方を知って、よりよい買い物や食事が出来るようになったと思います。ところで、皆さんには自分の名前や顔を覚えていてくれて買い物をするお店や食事をする店が何軒ぐらいありますか? そういう店がある人は幸せなんじゃないかと思います。私には札幌市内やネット内でそうした店をいくつか知っています。いわゆる行きつけの店です。その店に行くと、心が落ち着きますし買い物や食事をしてもぐんと楽しいのです。自分の事を知ってくれているので、あれこれとこちらの要望も聞いてくれます。たとえ値段は同じだったとしても、そのひと時の心地よさが良くて、そこに通っているのだと思います。店の人と同じ場所や時間を共有している気がして何だか嬉しいのです。そういう気持ちになるのは、店の人が見えないところでいろいろと気配りをしてくれているからだとも思います。
 
だれでもいいから客が要るという目的で宣伝による集客を試みる店では、そのもてなし方は自ずと知れていると思います。たとえ時間がかかっても、目の前にいるお客さんを大事にしながら、そのつながりを通して自然とお客を集める松野さんの地道なやり方は、これから独立して店を出そうとする若い人達にとっては、大いに参考になると思います。また、もてなすとはどういうことかを考えるヒントにもなる店だと思います。
 
飲食店に限らず商売の成功の鍵は、人とのつながりがどれだけあるかだと思います。いや今は余りつながりが無くても、人とのつながりを持とうとする気持ちが大事だと思います。仕事の上だけでなくて普段の生活から初対面の人に対してもきちんとした挨拶や会話が出来て、人との交わりを楽しめる事。また松野さんが飾らない人柄だったからこそ、これまでに200人ものつながりが出来たのだと思います。そして何といいましても独立する前に勤務していたホテルや飲食店でのもてなし方に感心して多くのファンができたそうです。松野さんの様なお店がお得意さんにいるチーズマーケットの山本知史は幸せ者です。これから先も美味しい物を提供したり・されたりするお付き合いが楽しみです。松野さんと同じ時代に生きていることに感謝したいと思います。
 
独立のためにお金を貯める努力をする事も、それに向かって勉強をすることも素晴らしいです。しかし、それと同時に自分を磨き、愛される人間に成ることは難しいですが、それが出来れば松野さんのように大抵の客商売は、うまくいくと感じた一言でした。




(お願い。)一月三舟は、札幌市中央区にあります。行ってみたい方は、ご自身でネットなどで調べてください。チーズマーケットの店頭では店の住所と電話番号をお知らせしています。(しかし、電話やメールでの問い合わせはご遠慮ください。)
 
偶然通りかかって入ってきただけのお客なのか、行ってみたいと思って自分達の時間をやり繰りして来てくれたお客なのかで、松野さんのもてなし方も当然大きく変わりますので、自分の事を松野さんに伝えるといいと思います。これはチーズマーケットでも同じ事です。どうやってチーズマーケットを知ったのかを最初に話してくれると、値段は同じですが試食の数も変わって来ますし、可能な限りいろいろとお話もして気持ちよく買い物が出来るようにがんばちゃいますから・・・^^)。


手紙を書ける相手が200人いれば、独立して飲食店はやれる。(一月三舟・札幌;松野 俊一)