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「C級の中小企業は、世界を相手に勝負しろ。」 中村 義一

「C級の中小企業は、世界を相手に勝負しろ。」


中村 義一さんは、東京の三鷹市にある光学機器メーカーの会長さんです。今年で74歳でありながら、今なお作業着姿で現場を取り仕切っています。小さな町工場でありながら、技術力は世界が認めるほど高く、日本の大手ーカーに負けない素晴らしさです。しかし、日本という国では、国が発注する全ての仕事は、中村さんのようにどんなに高い技術力を持っている会社であっても、規模が小さいが故に仕事がもらえない実情があります。この日本独特の問題がある現状で、彼が口にした言葉がこの「C級の中小企業は、世界を相手に勝負しろ。」だったのです。
 
一体どういうことかと申しますと、日本の官報には、公的機関が発注する仕事の入札への参加資格というのが出ています。それは、「A級(一部上場企業)かB級(二部上場企業)だけが参加出来る。」という全く不公平なものです。 それ以外のC級?に当たる「中村さん達の様な中小企業は、入札はご遠慮ください。」と決められているのです。「仮にどこよりも高い技術があったとしても、小さい企業や個人だったら、入札への参加は許しません。」というのが日本という国のようです。品質よりも何よりも最優先するのが会社の規模というのです。そこで中村さんは考えました。日本でこうした入札で仕事を得る道が閉ざされているのなら、別の道を切り開いてこの高い技術力を売っていかなくてはならないと。そう考えると日本の中小企業は、会社の規模を最重視する日本という国を相手にするのではなく、色眼鏡を掛けず真に技術力だけで判断して認めてくれる世界中にあるいろいろな国の会社や人々を相手にして商売をして行かなくてはならないと感じたそうです。それが今回のお言葉の意味だったのです。
 
私達チーズマーケットも開業当初、営業に行った先のデパートやホテルなどから、「御社の資本金はいくらですか?」とか「創業は何年ですか?」とか「取引銀行はどこですか?」とか「会社案内を提出して下さい。」などなど、会社の規模を問題にされることばかりでした。会社を売るわけではなくチーズが売りものなのに、チーズの品質を確かようともせず、会社の規模の話ばかりで全くかみ合いませんでした。さらに中村さんは続けます。「でも海外は日本と違います。技術が高ければ、中小企業であろうとなかろうと全く関係がなく、その良さを公正に認めれくれます。」とおっしゃいます。しかし、日本の役人はもちろんのこと、一般的な日本人の心の中にさえも、「小さな町工場が作った製品は信用しないし、逆に性能が悪くても名の知れた大手の製品であれば、無条件に良いという信仰のようなものがある。」とおっしゃいます。そうした人がそう判断してしまう最大の理由は、彼ら日本人が「自分の頭で考えることが出来ないから。」だと中村さんは手厳しいです。
 
この言葉を聞いて、私はとてもスカッとしました。今までうまく口に出来なかったことを表してくれた気がします。そうなんです。「大多数の日本人は、自分の頭で考えていない。」と私も思います。ここ数年、チーズの仕事でヨーロッパに行く回数がとても増えました。そして、いろいろな国の人々とチーズの話はもちろん、それ以外のプライベートな話、例えば生活の様子や仕事の話、子供の学校のこと、休暇の長さや過ごし方、そして食品の選び方などを自宅に招かれじっくりと時間をかけて話を聞きます。そして、そうしたお話を聞くといつも感じることがあります。それは、・・・彼らは私達日本人の平均所得よりもかなり低いですが、どうしてみんなそれぞれがとても個性的で、自信に溢れた顔をしていて、別にブランド物の服ではなく質素な服を着ていても、別に化粧なんてしていなくても、1本200円ほどのワインを飲んでいても、皆が皆、本当に幸せそうに歩いているはどうしてなの?ということでした。その理由がとても気になりました。お金を積んでも、またお金では交換できない、お金では決して解決できない心の持ち方、ある哲学があるのでは? と気が付きました。そして日本人と彼らとの根本的な差は一体何なんだろうか?と、ここ数年の間自問自答してきました。その一つの答えが、「多くの日本人は自分の頭で考えていない。」というものだったのだと、中村さんの話を聞いて納得しました。ヨーロッパの彼らはどんなことにも一度立ち止まり、自分の頭でそれがよいかどうか、相手がどんな人間なのかを自分の目で見て、自分の頭で考え、自分で判断しているということなのです。取引をする会社の規模や創業年数や資本金の大きさではなくて、目の前にいる人間全体を見ているのです。だから、一体どんな人間が作ったのか分からないコマーシャルやTV番組などを見て、彼らの思考が大きく左右されて、飛びつくなんてことにならないのです。
 
一方、日本ではどんな物にもブームというものが常にあります。「このにがりが痩せる。ココアが体にいい。」などと宣伝したりTVで取り上げると、それはあっという間に日本全国の人々が買い求めるようになります。また、TV番組で「タレントの○△さんが行くレストラン。」と紹介されると、それに飛びつく人も各地に現れます。札幌でも老いも若きもチワワ犬を抱いている姿がここ数年でぐっと増えました。そしてしばらく経つと全てが忘れ去られ、次の標的(商品)に目が向かいます。(向けさせられる? 一体誰に?) こうしたことがただ毎年毎年繰り返されるだけで、同じものが大量に消費されていくのです。ただそれだけなんです。「積み重ねの成果」というものがないのです。そして、食に限らず、衣・食・住を含めたあらゆるものに多様性がなくなっているのです。日本のどこに住んでいても、同じペット飲料を飲んだり、同じインスタントものを食べたり、同じブランドのカバンをぶら下げているだけなのです。そうした無表情のまるで羊の群れの様な人々が日本の各地に溢れているのです。
 
「残念ながら、そうした宣伝などに簡単に靡いてしまうのは、常に自分の頭で考えて判断するという思考回路が出来ていないことが原因だ。」と中村さんは続けておっしゃっています。買う動機が自分の熟考の末に生まれたものではなく、自分以外の外からの情報頼みなのです。たとえ好感度良好なタレントが、「これはおいしいです。」と言っても、それは宣伝を仕事にしているだけなので、真意かどうかは不明です。しかしそれを簡単に信じてしまうことが、自分の頭で考えていない証拠なのです。そうした”熟考なしの買い物”を繰り返していては、いくらそれが高価でも、またどんなにそれらをたくさん買っても、心が満ち足りはしないのです。”大きな企業だから”、”有名な人だから”というだけで、日本人はそれを ”信仰”してしまいます。逆に「中小企業には高い技術の機械は作れない。」と決めつけているようなものなのです。自分の目で見て判断して買おうとせずに、”こうした何か大きな・有名なモノからの情報”というだけで簡単に信じてしまうのは危険ですし、これでは多様な積み上げや経験が増えていきません。私達日本人は、一人一人がもっと自分のことをよく考えて、例えば ”これが本当に自分に必要なのか?”とか ”これはモデルさんには似合っているけれど、果たして自分の体には合うのか?” などとよく考えていろいろな試行錯誤の過程を踏む必要があると思います。そうしたことでいろいろな工夫が生まれ、別にお金なんてたくさん持っていなくても、それぞれの個人の頭から生まれた斬新なアイデアでより個性的な表情を持つ自信に満ちた生き方が出来て、もっともっと幸せな顔をして胸を張って歩いていけるのではないかと思います。そして、あらゆるものの価値を判断する時に、その規模の大小や他人の評価で見るのではなく、より本質に目を向ける力が身に付いていくようになるのだと思います。
 
今から8年前にチーズマーケットという店を札幌で興せたのは、オランダやイタリアなどの海外にあるチーズ商社やチーズのメーカーさんたちのお陰でした。彼らは日本の大企業とは違いました。彼らは私達のやる気を一番に評価してくれました。経験は全くない。資本金も少ない。それでも私達と取引を始めてくれたのでした。そして、輸入したチーズマーケットのチーズを初めて日本で認めてくれたのも、札幌で活躍する多くのシェフさんたちでした。彼らは、私達の海外の取引先と同じ哲学を持ち、 自分の舌で自分で判断できる人たちでした。生まれたばかりの会社、チーズマーケットを大きさで見ないで、私達が選んだチーズの味を公正に評価してくれたのでした。私達は、この中村さんの言葉を胸にとめ、これからも日本ではごく少数派である「自分の頭で考えて判断する賢い日本の消費者の方達」に喜んで頂けるような店作りをしていきたいと、さらに強く思いました。これからもC級のチーズマーケットでは、海外にある素晴らしい心を持った生産者のチーズを探していきたいと思います。


「C級の中小企業は、世界を相手に勝負しろ。」 中村 義一