成瀬 博さんは、愛知県にある町工場の社長さん。93歳でなお現役の機械技術者。この言葉は、成瀬さんがこれまでの大企業からの下請け仕事に頼る体質を変えて、自分達の技術だけで独り立ちできるよう努力しようと決めた時に生まれたようです。 どういうことかと申しますと、成瀬さんの会社は、創業当時大企業の下請けを主な仕事にしていました。売り上げは増えていったものの、年々大企業は下請けに対していろいろな要求を強めていきました。それに伴い仕事をこなそうと休日出勤や残業が増えて体調を壊す社員も増えてきました。また、逆に納品価格が下がり、仕事があるのに経営自体が困難になって来るゆがみが出てきたそうです。ある年に成瀬さんは、決心しました。「もう下請けの仕事は一切止めよう」と。そう決めた時の言葉がこの「金よりも仕事の方が上だ。」なのです。つまり、大企業は下請けの会社に対して、「仕事をやらしてやる」とか「お金をもうけをさせてやっている」という考えが根底にある。だから、強引な値引きを求めてくるし、その上納期も短くしようとする。成瀬さんは、こんな条件ではとてもいい仕事は出来ないと感じたそうです。「大企業は、金さえ払えば、相手は何でも言う事を聞く。」という傲慢さがあると手厳しいです。成瀬さん曰く、「仕事をやってもらおうという考えが大企業にないのなら、わしもその仕事をやってやらん。」と実に明快です。「自分は金よりも仕事の方が上だと思う。金を出せばどんな仕事も思い通りに買えるとは思わない。世の中のもの全てを金というものさしだけで計ることは出来ない。しかし、”金が全て”と思い違いをしている人が多い。金を出すお客でも、まずは相手の仕事を尊重する心があって初めて、いい関係ができてお互いにとっていい仕事になり、取引が長く続いてゆく。」とおっしゃっているのです。下請けを止めてからは、成瀬さんの全社員は、残業なし、休日出勤なし、定年なしを続けていらっしゃるそうです。こんな会社が日本にあるとはとてもうれしいです。最近耳にする、朝食までも会社の机で食べる様な会社とは大きな差です。「ここまでゆとりがなくなったのか、日本の会社は。」と嘆かわしい限りです。「無理をして短時間・短期間で仕事をこなそう・解決しよう、売り上げを伸ばそうとするのは違う。」と成瀬さんはおっしゃっているのだと思います。「人も長持ち、物も長持ち。それがとても大切。使い捨てにされるような仕事をやったり、自分自身も人や物を簡単に使い捨てにするようなことをしてはいけない。」そして心あるお客さんにだけ喜んでもらえればいいから、あせらず一日で出来ることを確実に行なうことが大切であることを教えて頂きました。 |