| TOP |  お買い物方法 |  イタリア・CIBUS2008とトレンティーノ・アルト・アーディジェ州のチーズの旅日記 |

素晴らしいチーズ(商品)は、味だけでは見えてこない。働く人にも優しい取り組みをする会社(MAURI社)2008年5月



5月6日(火)(2008)の朝、イタリアを代表する食品見本市であるCIBUS2008の2日目に、かれこれ8年近く取引きをしている北イタリアのチーズ生産会社のEMILIO MAURI社の出展ブースを訪ねました。
 
今回の訪問で、私はこれまでずっと頭の中から消えなかった疑問が解決して頭がすっきりと晴れました。それは、マッシモさんから聞いた話がきっかけでした。では、どんな疑問だったのかと言えば、会社の姿勢が日本とヨーロッパの国々では大きく違うということです。例えば、美味しいレストランは日本にも数多くあります。しかし、そうした店の中には厨房で料理長が部下の仕事に対して敬意を払うどころか、怒鳴りつけていたり暴力を振るっている光景をTV番組で見たことがありました。そうした職場では、多くの従業員が長時間労働を強いられているなどの現状があって、悲しくなりました。そして、こんな酷いことをしないと美味しいお料理が出せなのかと情けなくなりました。いくらお料理が美味しくても、客が見えない所でそんな事をしていては、価値が無いと思います。また、ある会社では早朝から深夜まで働かざるを得ない劣悪な労働環境を長い間ずっと放置しておいて、従業員には「笑顔で接客」なんて求めるなんて、大きな疑問を感じます。近年、こんな会社ばかりが増えて、果たして日本は大丈夫なんだろうか?と思っていました。

ゴルゴンゾラやタレッジョを生産するEmilio Mauri社。チーズが美味しいだけではなく、働く人にも優しい会社です。

マッシモさんが上の写真の証明書を見せてくれた時に、私はハッと気付きました。「この紙が意味するのは、MAURI社が製造している製品(チーズ)の安全性や品質が優れている事だけではなく、工場の衛生面はもちろん、そこで働く人達の労働環境もしっかりと整っている事が認められたんだ。」と言うのです。つまり、食品衛生法や労働法など全ての法令を各企業が順守するのはヨーロッパでは当たり前の事なのです。イタリアでは、一日8時間労働が法律で定められているのに、その法律に違反して働かせると、会社が厳しく罰せられます。こうして弱い立場の労働者が泣き寝入りすることが無いのです。それ故、MAURI社では定年まで長く働く人が多い様です。フランスやイタリアなどの国では、労働者を守るきちんとした法律が整備されていて、さらにそうした法律を順守する強い意志が、政府や企業にもあるのです。各企業は法律を守りながら、さらに企業努力をすることで競争力を高め、お互いの企業が競い合っているのです。特にMAURI社では、一日の労働の様子もマニュアル化されていて、それ以外の余分な労働が起らない様に経営者側が注意を払っているのです。こういう点が認められて、この証明書を取得するに至ったのです。

CIBUS2008 でのMAURI社の出展ブースの様子。チーズを家庭でお料理に使って美味しく食べましょうという提案をしていました。

従業員に無理をさせて長時間労働をさせれば、確かに生産コストは下がります。その分、同じ質の製品を安く売ることが出来て、競争力は高まります。でも、その陰で苦しんでいる日本の労働者が多い事に国は目を背けてはいけませんし、すぐにそうした悪い企業に法律を順守させる様に指導しなくてはなりません。労働者を大切にしないそうした企業には、同じ日本人の我々消費者も厳しい目を向けなければなりません。労働基準法などの法律をきちんと守らない会社の製品を買ったり、先の例の様なレストランやホテルに行く事は、そうした悪を認めるのと同じだと私は思います。製品の競争力を上げる為に、機械化を導入したり、賃金以外の経費を削減するのなら納得しますが、働く人を傷つけてまでやる事は絶対に許せません。バスや列車で暴力を振るう人がいて、それを見過ごすことはその暴力を認めることになると私は思います。確かに仕返しは怖いけれど、人としてそれに立ち向かわないと生きていく意味が無いと思います。大人として避けては通れないと思っています。
 
日本中の多くの労働者が、サービス残業をしたその結果で、国民総生産が世界2位だとか3位と言っても喜べる話ではありません。法律を守らないで経済活動をして、法律を守ったフランスやイタリアよりも経済力が上だなんて言っても無意味です。何故、日本人の事を「エコノミック・アニマル」と欧米の人達が呼んでいたのか、私はやっと分かりました。彼らと同じ時間働いて、彼らよりも優れた物を作ったり、多くの量を生産したのなら、彼らも認めます。でも、彼らが休んでいる時にも働いて、例えば良い車や電気製品を作って、それらが良く売れることで、逆に自分達の製品が売れない事に不公平感を抱いたのだと知りました。日本は、国も企業も法律を守らず、国際社会という大きな視点で見つめた時、同じスタートライン(同じ労働時間)に立って競おうとしていないのです。こうした姿勢の我々日本人を彼らは罵っているのだと知りました。「過度な労働を強いることは、基本的人権を侵害している。」と私は気付きました。それを黙認しているのが今の国家であり、日本企業なのです。しかし、以前の私なら「たくさん働いて何が悪いの?」と思っていました。しかし、間違っていたと気付きました。自分が長時間働く事は、回りの人にもそれを強いたり、あるいは労働賃金を低下させることにつながる事になるのです。島国日本にいると気付かないかもしれませんが、「日本人がたとえ日本列島内でも過剰労働をしていても、同じ地球に住むその他の地域の人々の賃金低下を招く。」と、彼らはとっくの昔から気付いていたのです。どこの国や地域に住んでいようと、地球の仲間という大きな視野で考えれば、長時間労働は日本人や日本国内だけの問題ではないのです。恥かしながら、私もやっと彼らヨーロッパの人の言うことが正しいと分かりました。
 
毎日の生活を楽しめないほど働いては、いけないのです。また、働かされてもいけないのです。名ばかり管理職で働く人たちが、日本各地で訴えを起こした事は、大いに賛成したいですし、私も応援したいと思っています。一人の声は真に小さいですが、何とかして日本をもっと良くしたいと思います。ヨーロッパの良いところは、大いに習いたいと思います。
 
美味しさの裏側にあるのは、良心か悪意か。チーズマーケットでは、MAURI社の様な素晴らしい生産者だけを選んでいきたいと思います。その為には、現地に行って自分の目で確かめて、自信を持って本当の意味で美味しいチーズを提供していきたいです。


素晴らしいチーズ(商品)は、味だけでは見えてこない。働く人にも優しい取り組みをする会社(MAURI社)2008年5月